ダウン症のある方は老化が早い?知的障害のある方の認知症について

私は現在、障害者の就労継続支援事業所で働かせていただいております。その事業所には特別支援学校高等部を卒業したばかりの方から50代の方まで通所されています。

施設の利用者さんの様子を見ていて知的障害のある方々の老化について気づくことがあったので、今回は知的障害のある方の老化と認知症について記事にさせていただきます。

私の職場の利用者さんの老化について

私が働いている生活介護施設に通所されている方々には知的障害があります。知的障害を伴うダウン症の方や自閉症の方が多くいらっしゃいます。老化について様子を観察してみると、知的障害のある方の老化は健常者よりも早いように感じます。

みどり
疲れやすかったり、居眠りが増えたり、トイレの失敗が増えたり、50代で認知症の症状が出ている方がいらっしゃったり…。詳しいことは書けませんが、老化が目立つ方々がいらっしゃいます。

知的障害のある方の認知症について

知的障害のある方の認知症について調べてみました。次の本を読み、参考にさせていただきました。

認知症とは、成人になってから起こる認知機能の障害のために通常の生活に支障をきたした状態をいいます。脳の神経疾患による機能障害が主な要因で起こり、加齢による老化とは異なります。そのため、いったん獲得された経験や知識、人格や社会性が徐々に失われ続け、これまで築いてきた人間関係や社会資源とのつながりが途切れ、生活に大きな影響を及ぼします。

認知症の症状

  • 記憶障害、見当識障害、失語・失行・失認、計算力の低下、判断力の低下などの中核症状
  • 不安感・心気状態(自分の体のある部分にこだわって具合の悪さを心配する)、脅迫症状、抑うつ状態と無気力状態、幻覚、妄想、睡眠障害などの心理(精神)症状
  • 徘徊・帰宅行動、攻撃的な言動・介護への抵抗、昼夜逆転、不潔行為、収集癖、異食行為、失禁などの行動症状
  • せん妄などの意識障害
認知症ともの忘れの違い

健康な人が体験するもの忘れは、体験の一部分を忘れるというものです。しかし、認知症に見られるもの忘れは、体験全体をすっかり忘れることが特徴です。例えば、昼食を誰と一緒に食べたのか、その人たちの名前を思い出せないのは、健康な人の物忘れですが、昼食を食べたこと自体をすっかり忘れるのは認知症のもの忘れです。健康な人はもの忘れをしていることを自覚できていますが、認知症の人は自分がもの忘れをしていることを自覚できない場合が多くあります。

認知症に類似した状態(せん妄とうつ病)

認知症によく似た症状を示す二つの状態があります。それはせん妄うつ病です。

せん妄とは、意識障害に興奮状態が加わって落ち着かなくなり、さらに幻覚が起こる状態です。主な原因は脳梗塞など脳の循環障害ですが、その他にも心筋梗塞、肺炎などの感染症、脱水症状、睡眠薬や向精神薬の過剰投与、アルコール中毒などによって起こります。せん妄と認知症の違いは、急に起こることです。急に現実にそぐわないことを言ったりするのはせん妄で、朝は普通だったのに昼頃には変化が見られ、夕方になると再びはっきりとしてくるというように、一日の中で症状が変動するのもせん妄の特徴です。認知症の場合には症状が現れるのに長い経過がかかり、症状は固定しています。

うつ病になると、うつ気分や意欲の低下、頭痛や不眠などの体の症状など認知症に似た状態になりますが、うつ病が回復すると元に戻るので、認知症とは区別されています。

認知症の主な原因疾患

アルツハイマー型認知症

大脳皮質の神経細胞が消失し、このため脳の萎縮が起こります。組織学的所見として、老人斑、神経原繊維変化、神経細胞の萎縮が見られます。アルツハイマー型認知症では、発症の時期は明確でなく、いつともなく物忘れが始まり、10〜15年の期間で認知機能が少しずつ低下していきます。軽度では記憶障害、時間の失見当、遂行機能障害が見られ、中等度では、思考や判断の低下が著しくなり、場所の失見当が起こります。重度になると、家族の顔も識別できなくなります。

みどり
アミロイドβというタンパク質が大脳にたくさん溜まっていくと老人斑が増えていくため、アミロイドβがアルツハイマー型認知症を発症する原因になるとされています。ダウン症のある人が老化が早いと言われている原因として、21番染色体が関係していると言われているそうです。21番染色体にはアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子があり、ダウン症候群のある人では21番染色体が一本多いために、アミロイド前駆体タンパク質も過剰に発現しているそうです。アミロイド前駆体タンパク質は分解されてアミロイドβタンパク質となり、脳に溜まり、老人斑を形成します。
アミロイドβは以前、糖質制限についての記事にも出てきました。脳の中のタンパク質と糖が結びつくと、アルツハイマー病の原因となるβアミロイドなどの産生が増加するとのことです。
血管性認知症

高血圧、脂質異常症、糖尿病、脳動脈硬化症などがあると、脳の血液の流れが障害されて脳血管障害をきたします。頻度の高いものに脳梗塞と脳出血があり、いずれも急に起こるので脳卒中と呼ばれています。もう一つのタイプは、大脳の白質に広い範囲で脳血流のとぼしい病変が起こり、認知症を引き起こすというものです。

血管性認知症には脳卒中を契機として発症し、片麻痺や言語障害などの局所症状を伴う発作型と、症状が徐々に出現する緩徐型があります。初期症状として、頭痛・頭重、肩こり、めまい、四肢のしびれ、耳鳴り、不眠、疲労性亢進、もの忘れ、注意障害、気分の不安定などの様々な自覚症状が見られ、身体症状として高血圧、糖尿病、心循環器障害を伴います。さらに、片麻痺、感覚障害、構音障害などが現れます。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳の全体に、レビー小体といわれる異常な物質が沈着して起こります。レビー小体型認知症の代表的な症状として、パーキンソン症状とともに幻視が現れます。パーキンソン症状は、からだ全体の動きが悪くなり、足がすくんだようになり、最初の一歩が踏み出せず、歩き出すと小刻みに歩いたり、前傾姿勢で突進するように歩いたりします。進行は比較的早く、認知機能が変動するのが特徴です。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、初老期に発症する代表的な認知症の疾患です。アルツハイマー型認知症は脳の全体が徐々に萎縮していきますが、前頭側頭型認知症は脳の前頭葉と側頭葉に限定して萎縮していく病気です。前頭側頭型認知症の症状には人格の変化に特徴があります。人が見ているのにお店で万引きをしたり、レジのところでお金をわしずづかみにして平気で立ち去ろうとするなどします。

知的障害のある人が認知症になった場合の初期症状と診断

知的障害がある人が認知症になった場合、次のような初期の変化が見られます。

〇頑固になったり、引きこもったりするなどの性格の変化
〇交通安全が守れない、公共交通機関が利用できなくなる
〇日常生活で、以前は出来ていたことが出来なくなる
〇歩行やバランスの変化
〇混乱することが増える
〇階段や段差の上り下りが困難なる
〇行動、考え方、人格の変化
〇日々の活動に対する意欲の低下
〇以前にはなかった、悲しみや恐怖、攻撃性が続く
〇てんかん発作

『知的障害と認知症 家族のためのガイド』カレン・ウォッチマン著 木下大生/竹内千仙/ケビン・Mマクマナス監訳 株式会社現代人文社 より引用

軽度の知的障害のある人では、認知症の症状や経過は一般の人の認知症とほぼ同様であると考えられていますが、重度の知的障害がある人では、認知症の発症年齢が一般的な人口よりも数年程度早いことが多いようです。また、ダウン症候群のある人の場合は認知症のリスクが高いため、30歳以降は2年に一回毎に、50歳以降は毎年変化の状況を調べる必要があるようです。

知的障害のある人の認知症の症状を判別するための尺度(『知的障害者用認知症判別尺度DSQⅡD』)がインターネット上に公開されているので、それを利用して認知機能の低下を調べることが出来ます。

みどり
加齢に伴って、脳機能だけではなく視覚や聴覚、触覚なども機能が衰えていくので、行動の変化が認知症ではなくその他の機能低下によって引き起こされている場合もあります。視覚の老化に伴う病気には老視、白内障、緑内障、黄斑変性症などがあります。聴覚の老化に伴う病気には加齢性難聴があります。定期的な身体検査が必要ですね。

まとめ

知的障害のある方の認知症についての本を読んでみて、ダウン症のある方の老化が早く、認知症のリスクが高いことが分かりました。また、重度の知的障害がある方も健常の場合よりも少し認知症の発症年齢が早いことも分かりました。

認知症が進行するのは、原因疾患があるためです。認知症は、失われる能力が増えて、残されている能力が減っていくという特徴を持っていますが、それは時間に比例して変化するものではなく、また、どの段階でも、残された能力を生かしながら生活することが出来ない環境に直面すると、せっかく残っている能力も失われた能力と同じように活用することが出来なくなります。そのため、その人のもっている能力を生かす環境をどのようにつくるのか、ということが大切で、その能力を見極めるために「人」と「生活」の視点が必要になります。認知症という病気による認知機能の障害が環境の不適応を起こしている主な原因にはなりますが、その他「人」と「生活」からも介護のヒントを見出すことが重要です。

知的障害のある人の認知機能の低下については、健常の人の指標をそのまま適用してる測ることが出来ないので、定期的に30歳の頃の能力と比較しながら本人の様子を観察してみたり、知的障害のある人の認知症の症状を判別するための尺度を利用して検査する必要があるようです。介護の視点では健常の人を介護する時と同じように、「人」と「生活」をよく観察して、残存能力を活かしながらその人が快適に、その人らしく生活できる環境を整えてあげることが大切だと思いました。

読んでくださり有難うございました。

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