先日、「バンクシーって誰?」展に行きました。今回は覆面アーティスト、バンクシーについて調べたことと「バンクシーって誰?」展の感想について綴らせていただきます。
バンクシーの略歴 1974年、イギリスのブリストル近郊で誕生しました。 1990年(推定16歳)、ブリストルのストリートの壁にタギング(スプレーで”落書き”)活動を開始しました。 1995年(21歳)、フリーハンドの作風からステンシル を用いた表現へ移行していきました。
みどり バンクシーは型を作って壁に持って行って、スプレーを吹きかけて描くステンシルの画法で壁に絵を描いています。だから、違法な壁への落書きを短時間で出来るのですね。
1999年(25歳)、ブリストルの壁にフリーハンドによる後期の作品『マイルド・マイルド・ウェスト』を描きました。その年、活動拠点をロンドンに移しました。
『Mild Mild West』1999年、ブリストル 2002年(28歳)、UKのミュージシャン(blurの『THINK TANK』など)のカバーを手掛けました。 同年、国際環境NGO「グリーンピース」からの依頼で森林破壊反対キャンペーン用のポスターを制作しました。
『Save or Delete』2002年、ディズニーの『ジャングル・ブック』の主人公たちが処刑されそうになっています。バンクシーはこのポスターの制作を最後に、大手企業等からのオファーを全て断っています。 2003年(29歳)、ロンドン市内で開催されたイラク戦争反対デモにてプラカードを配布し、ロンドンにて個展『ターフ・ウォー 』をゲリラ開催しました。その際、牧場から連れて来た豚や牛などの家畜にステンシルで絵を描いたことで、動物愛護団体から抗議を受けました。
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みどり バンクシーの作品のテーマの中には「反戦」、「反消費主義」、「反ファシズム」、「反帝国主義」、「反権威主義」、「反人種差別」、「反環境汚染」などがあります 。私はバンクシーの主張に共感するところもあります。私もアニマルウェルフェアに関心があり、普段お肉を買う時に家畜の成育環境について考えて、「パルシステム」の肉や卵を買ったりします。
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2003年、パレスチナのベツレヘムに『花束を投げる男』を描く
『花束を投げる男』2003年、パレスチナ 2005年(31歳)、アメリカのメトロポリタン美術館、MoMA、ブルックリン美術館、アメリカ自然史博物館、さらにイギリスの大英博物館に潜入し自身の作品をゲリラ展示しました。また、パレスチナの分離壁に『風船と少女 』などの作品を残しました。
『Balloon Debate』2005年、パレスチナ 有名な「ベトナム戦争中にナパーム弾に焼かれ逃げる少女」がミッキーとマクドナルドに腕を引かれている絵。2004年 2006年(32歳)、アメリカのロサンゼルスにて個展『Barely Legal(かろうじて合法)』を開催しました。そこで、全身をペイントしたインド象を展示しました。(安全な絵の具でペイントしたのでbarely legal)
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2007年(33歳)、ロンドンの郵便局の壁に『カメラの監視下におかれた国民国家』とペイントしました。
『One Naion Under CCTV』2007年、ロンドン 『What are you looking at?』2004年、ロンドン 『公衆電話を傍受する男たち』2007年、ロンドン 2013年(39歳)、ニューヨーク滞在中のバンクシーが1カ月にわたって毎日1つ、街角に作品を描いてそれを公式Instagramに投稿するイベント『Better out Than In 』を開催しました。
みどり バンクシーの公式アカウント(https://www.instagram.com/banksy/)で作品を観ることが出来ます。『Better Out Than In』の期間中、ニューヨーク中の人々がSNSを見て、バンクシーの新作探しに熱狂しました。中には作品に上書きするアンチや、販売目的で作品を持ち去る人もいました。
2015年(41歳)、パレスチナのガザ地区に潜入し、イスラエル軍の攻撃で荒れ果てた瓦礫の街の壁に鉄くずを丸めたボールで遊ぶ『巨大な子猫』を描きました。
『巨大な子猫』2015年、パレスチナガザ地区 イギリスのウェスト=スーパー=メアにてテーマパーク『ディズマランド(DismaLand)を開催しました。
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みどり ディズマランドには「馬車に乗ったシンデレラが事故に遭っているのをパパラッチが激写しているオブジェ」や「便器からシャチが飛び出して枠くぐりして小さなビニールプールに飛び込もうとしているオブジェ」、「難民がぎゅうぎゅう詰めに乗せた小さなボートの模型を操作するアトラクション」などが展示されていて、陰鬱とした(dismal)テーマパークでした。私は昔大学生の頃、千葉県にある某テーマパークでアルバイトをしました。「学生最後の年越しは家族と過ごしたいからカウントダウンのシフトに入れない」と社員さんに言ったら、「それなら来月から来なくていい」と言われました。バイト最終日の12月31日は早朝8時から18時まで混み合う中で働いて、終わった後に「自分は繁忙期の使い捨てだな…」と思った苦い経験があるので、それ以来行っていないです。
2015年、フランス北部カレーにある難民キャンプにて、シリア人の父親を持つスティーブ・ジョブズ『シリア移民の息子』が描かれました。
『シリア難民の息子』2015年、フランス・カレー 2017年(43歳)、パレスチナ自治区ベツレヘムに「世界一眺めの悪いホテル(The Walled Off Hotel)」をオープンしました。イギリスのドーバー湾にて、ブレグジットを風刺した『欧州連合の星を削る作業員』の姿を描きました。
イスラエルとパレスチナを分断する壁の前に立っているホテル。部屋からすぐ目の前に分離壁が建っていて、とても眺めが悪いです。壁に描かれたバンクシーの絵を観ることが出来ます。 分離壁に描かれた絵。 ドーバーの壁に描かれたEU旗の星の一つを取り除く作業を行っている作業員の絵。 2018年(44歳)、競売大手のサザビーズのオークションにて『風船と少女』がシュレッダーされる事件が発生しました。
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2019年(45歳)、サザビーズにて英議会の議員をチンパンジーに見立てた絵画『英国の地方議会』がバンクシー作品で当時の過去最高の落札額、約13億円で落札されました。
『英国の地方議会』2019年。チンパンジーの議員が座っている。250×420㎝もある巨大な作品です。 2020年(46歳)、ブリストルの住宅街の壁面に激しいくしゃみをして大量の飛沫と入れ歯を飛ばすお婆さんの壁画が描かれました。
『くしゃみをして入れ歯を飛ばすお婆さん』2020年、ブリストル 2021年(47歳)、スーパーヒーローの人形が捨てられたごみ箱のそばで、看護師の人形を手に遊ぶ少年が描かれている油絵の作品『Game Changer』がロンドンの競売大手クリスティーズでオークションに掛けられ、バンクシー作品としては過去最高額の約25億円で落札されました。収益は国の保健サービスに寄付されました。
『Game Changer』2021年 「バンクシーって誰?」展についての私の感想 ここからは、「バンクシーって誰?」展の私の感想です。「バンクシーって誰?」展では、バンクシーの代表作を実際のスケール感で体感できるように再現された、映画のセットのような展覧会でした。
会場に足を踏み入れると、映画のセットのようでした。我が子も異空間を楽しんでいました。 入ってすぐ、『くしゃみをして入れ歯を飛ばすお婆さん』の壁画がありました。坂道の町並みが映画のセットのように再現されていました。 館内では一部のゾーンを除き写真撮影OKでした。 2006年にロサンゼルスで開催された『Barely Legal』の時に展示されたペイントされた像も再現されていました。 2013年にニューヨークで行われたイベント『Better Out Than In』でニューヨークの街角に描かれた絵も再現されていました。 ここからはパレスチナゾーンです。瓦礫の中に洗濯物が干されていて、リアル。 2015年にパレスチナのガザ地区の瓦礫に描かれた巨大な猫の絵も再現されていました。実際の大きさも体感出来て、とても面白かったです。 2015年に描かれたシリア難民の息子(スティーブ・ジョブズ)の壁画もありました。バンクシーは「“We’re often led to believe migration is a drain on the country’s resources, but Steve Jobs was the son of a Syrian migrant. Apple is the world’s most profitable company, it pays over $7 billion a year in taxes—and it only exists because they allowed in a young man from Homs,”」と声明を出しました。 パレスチナの地図です。赤い線がイスラエル政府が築いた高さ8m、全長700㎞にも及ぶ分離壁です。 分離壁の前で営業している、『世界一眺めの悪いホテル』の窓から見える分離壁に描かれたバンクシーの作品も、ホテルの窓から見ているような形で展示されていました。 『世界一眺めの悪いホテル』から見えるバンクシーの作品『Art Attack』 『世界一眺めの悪いホテル』から見える『風船と少女』 パレスチナの分離壁に描かれている『Flower Thrower』火炎瓶の代わりに全力で花束を投げています。現地のガソリンスタンドの壁に描かれた5mほどの作品です。 『Bullet-Proofed Dove』2005年、パレスチナ。パレスチナのベツレヘム市街の壁に描かれている鳩は防弾チョッキを着て、その胸は銃口を向けられてターゲットにされています。 約1億5,000万円での落札が決まったとたんにシュレッダーが作動して切り刻まれた赤い風船と少女の図。2014年にはシリアの子ども達を救うキャンペーンのアイコンにもなったこの図は、2002年に初めてロンドンのウォータールー橋のたもとの階段に描かれました。当時、誰かが「THERE IS ALWAYS HOPE」と書き加えたことで、この絵は一層人々の心に訴えかける作品となり、イギリス人の誰もが愛する国民的名画となりました。
みどり バンクシーの作品についてはオークションで切断された『風船と少女』や東京にも見つかったネズミの絵くらいしか知らなかった私でしたが、「バンクシーって誰?」展を訪れたことでバンクシーが社会に訴えかけていることなどを詳しく知ることが出来、バンクシーへの関心が深まりました。壁画のレプリカは実物大なのでリアルで楽しめました。ライトの光で現れるネズミなどの色々仕掛けもあって、子どもも楽しめる展覧会でした。
東京で見つかったネズミの絵。バンクシーが有名になる前の2002年、「And A」と「Montage」という日本のアパレルブランドがいち早くバンクシーに目をつけ、バンクシーにデザインを依頼してTシャツを作りました。東京の日の出駅付近で見つかったネズミの絵は、その年に来日した際に描かれたのではないかと言われています。 バンクシーはネズミをよく描きます。Undergroundで自由自在に動き回って、仲間とネットワークを作りながら逞しく勢力を拡大して生きるネズミに自身を投影しているのでしょうか。
まとめ 「バンクシーって誰?」展を観に行ったことによって、バンクシーの作品や彼が訴えかけていることについて詳しく知る機会を得る機会を得ることが出来ました。
バンクシーの作品を見て、イギリス人らしい皮肉やユーモアのある表現を「面白いな」と感じました。また、彼が訴えかけるLove&PeaceからJohn Lennonとオノ・ヨーコの平和活動パフォーマンスを連想しました。危険を伴いながらも、パレスチナの分離壁に絵を描く姿は格好いいと思ったし、『花束を投げる男』や『風船と少女』のデザインがとてもオシャレで素敵だと思いました。
バンクシーの作品を見て、彼が訴えかけていることに支持するところが沢山ありました。しかし、残念ですが私は彼の作品からワクワクするような胸の高揚を感じることが出来ませんでした。先日、別の記事 でレッサー・ユリィの絵を初めて観た時の興奮を綴らせていただいたのですが、そういうワクワク感を感じることが出来ませんでした。私はアートから心が湧き立つようなインスピレーションを得ることを楽しみにしているので、バンクシーの主張はすごく共感できますが、感動が得られなかったことは少し残念でした。バンクシーの作品はステンシルにスプレーで絵の具を噴射してあっという間に描かれていて、何度でも複製が出来るようなものなので、彼のパフォーマンスは面白いのですが、作品はそこまで心が惹かれるものではありませんでした。
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みどり バンクシーは地下鉄にもスプレーで絵を描いているみたい。バンクシーの絵はオークションで高く売れるから金銭的価値はあるけれど、だからといって公共の乗り物に絵を描いたら本当にみんなが喜んでくれるのでしょうか。(オランダに住んでいた頃、電車に描かれた落書きが大嫌いでした。)それってエゴなんじゃないかって私は思ってしまいます。エルサレムの壁もエゴの固まりなんだろうけど…。
読んでくださり有難うございました。