『ダミアン・ハースト 桜』展を観に行った感想

昨日、国立新美術館で開催されている『ダミアン・ハースト 桜』展を観に行きました。

今回はダミアン・ハーストについてと『桜』展についての感想を記事にさせていただきます。

ダミアン・ハーストの略歴

ダミアン・ハーストは1965年、イギリスのブリストルに生まれ、リーズで育ちました。

みどり
以前、バンクシー展に行きました。バンクシーもブリストル生まれです。現代アートの二大巨頭であるダミアンハーストとバンクシー、共通点がありますね。

1980年代初期からジェイコブ・クラマー・カレッジ・オブ・アートにて美術を学び始めました。
1984年、ヨーロッパの美術館を訪れ始める。オランダのハーグの『マウリッツハイス美術館』でレンブラント作『ニコラス・ティルプ博士の解剖学講義』を鑑賞しました。また、アムステルダムの『ファン・ゴッホ美術館』でゴッホの<桜>のシリーズを観て、影響を受けました。また、学生時代にパリのポンピドゥー・センターでピエール・ボナールとウィレム・デ・クーニングの展覧会を観に行きました。後に「2人のアーティストに私は強い衝撃を受けた」と語っています。

『花咲くアーモンド』1890年,ゴッホ美術館
みどり
ダミアン・ハーストはゴッホにも影響を受けているのですね。宜しければゴッホ美術館展についての記事もご覧ください。
1986年〜1989年、ハーストはロンドンのゴールド・スミスカレッジに入学し、1989年に卒業しました。2年生の時、16人のクラスメイトと共に作品を展示した『フリーズ展』を開催しました。この展覧会で広告代理店「サーチ・アンド・サーチ」(Saatchi & Saatchi)の創業者の一人であるチャールズ・サーチが若い学生たちの作品から革新的な価値を見出し、ハーストやその他の新鋭アーティストのスポンサーとして作品を収集し始め、92年から収集した作品をギャラリーで展示し、後にYBAs(Young British Artists)と呼ばれる一群の作家を世に送り出しました。
ダミアン・ハーストの典型的なシリーズの一つである<スポット・ペインティング>をこの時期に製作し、『フリーズ』展では展覧会が開かれた倉庫の壁に直接描きました。<スポット・ペインティング>の各絵画のタイトルは製薬会社の薬の名前から付けられており、ドットは覚せい剤の錠剤をイメージしたものとされています。
1988年、<薬品キャビネット>シリーズの制作を開始しました。このシリーズの最初の作品は、彼の祖母が残した空の薬パッケージを使用して制作されました。
『Abalone Acetone Powder』1991年、http://damienhirst.com/sinnerより引用
『Sinner』1988年、http://damienhirst.com/sinnerより引用
みどり
「薬」は宿命的に存在している「病」や「死」に抗うための人間が作ったもの。ダミアン・ハーストは「生と死」をテーマにした作品で知られており、「死」に対して強烈に抗っていることを感じ取りました。

1990年、ハーストはインスタレーション作品『1000年』を制作しました。この作品は長方形のガラスケースの中で床に横たわる牛の頭をエサにしたウジ虫がハエになり死ぬというインスタレーションで、生命の循環を表現しています。

みどり
この作品は検索してみましたが、私は生理的に無理でした。でも客観的に思考してみると、生と死の循環は自然なことなのですよね。死というセンセーショナルなものを理性的に捉えて表現しようとしたのでしょうか。いずれにせよ、私が目を背けている「死」を真っ直ぐ見つめようとしていることはよく伝わります。
1991年、『生者の心における死の物理的不可能性』を皮切りにホルムアルデヒドのタンクに動物を沈める<自然史>シリーズを制作しました。1993年に制作した『母と子、分離されて』はイギリスのテート美術館が主催する現代美術のアーティストに授与する賞である「ターナー賞」を受賞しました。
みどり
『生者の心における死の物理的不可能性』も『母と子、分離されて』も検索してみましたが、私には生理的にきつかったです。特に『母と子、分離されて』が倫理的に受け入れられなかったです。実際には食卓でいただいている命なのですが…、やっぱりそういう事実にも目を背けて生きているのだと痛感します。
1992年、ロンドンで「YBAs(Young British Artists)」という展覧会シリーズが始まりました。ハーストは円形のキャンバスに求心力を利用して絵の具を広げる<スピン・ペインティング>シリーズを開始しました。

1993年、ハーストは1993年から1995年の間に作られた<ヴィジュアル・キャンディ>シリーズで、<スポット・ペインティング>と<自然史>シリーズにおけるミニマルで厳格な表現と決別しました。1994年に制作された『ハッピーハッピーハッピー』という作品は不揃いな丸い形が重なりながら自由に配置されています。

『Happy Happy Happy』1994年、http://damienhirst.com/sinnerより引用

2006年、ハーストは『美しい絵画の後で』と題した、頭蓋とゆがめられた顔を描いたシリーズの制作を開始しました。

みどり
ダミアン・ハーストはフランシス・ベーコンに影響を受けています。「Damien Hirst on Frances Bacon」のインタビューで、ハーストはフランシス・ベーコンの絵画にショックを受けたことから、「人は鑑賞することよりも、むしろ何かのきっかけになるようなものを求めている」とコメントしています。
2007年、『神の愛のために』という作品を制作しました。この作品は18世紀の人間の頭蓋を実物の大きさでかたどったもので、8601個の本物の見事なダイヤモンドで覆われ、実物の歯がつけられています。額には52カラットのピンクダイヤモンドがあしらわれています。
2010年、<ある夏の2週間>のシリーズを一人で制作しました。この時期に制作された絵画には、蝶やサメの顎、ガラスの瓶といった過去の作品で登場したものが伝統的な静物画のように描かれ、これらの絵画の中に初めて桜も描かれ、春から夏へと移り変わる桜が儚さの象徴として描かれました。
2016年、<カラー・スペース・ペインティング>シリーズが描かれました。
みどり
<スポット・ペインティング>は規則的で機械的に描かれましたが、<カラー・スペース・ペインティング>ではドットは不規則に、同じ色は繰り返されないように描かれました。
2017年、ヴェネツィアで大規模な展覧会「難破船アンビリーバブル号の宝物」が開催されました。この展覧会の直後から<ベールペインティング>シリーズに着手し、2年間その制作を続けました。
2018年から<桜>シリーズの107点の大型絵画作品が描かれました。2021年、「桜」シリーズの展覧会が本人にとって初めてフランスのパリで開催されました。

『ダミアン・ハースト 桜』展を観た感想

ここからは『ダミアン・ハースト 桜』展を観た感想です。

場に入場すると、広々として天井が高く明るい空間に大きな桜の絵が沢山並んでいました。入った瞬間から沢山の大きな桜の絵が目に入り、「わぁ!」とテンションが上がりました。

とても居心地の良い空間に明るいピンクの桜の絵が展示されていました。
『Greater Love Has No-One Than This Blossom』2019年 549×7321㎝もある巨大な作品です。
『Greater Love Has No-One Than This Blossom』2019年
『Fragility Blossom』(儚い桜)2018年、305×244㎝の作品
『Spiritual Day Blossom』2018年、二連画各305×244㎝
『Mountain Blossom』2018年、二連画各274×183㎝
近づいてみると、絵の具がボコボコしていてとても力強く打ち付けて描いた様子が伝わって来ました。
すごい生命力を感じるスポットの集まりでした。

オランダで見た桜を思い出しました

ダミアン・ハーストが描いた桜を見ていたら、オランダに住んでいた頃に見た桜のようだと思い出しました。

日本では少しグレーがかったソメイヨシノがよく見られるのですが、オランダでは河津桜のようなはっきりしたピンクの桜をよく見かけました。

オランダに住んでいた時に家の前に咲いていた桜です。
オランダの冬は毎日暗くて寒くて。それが春になると一斉に花が咲きだして、空も青くなって、あっという間に夏が来ました。
ヒメリンゴの木の花だったり、色々なCherry Blossomが咲いていました。
ゴッホ美術館の前にもピンクと白の桜の木が植えられていました。
ゴッホ美術館の桜。八重桜でピンクが濃かったです。
ゴッホ美術館のピンクと白の桜。

まとめ

ダミアン・ハーストの『桜』の展覧会はとても良かったです。とても明るいピンクや白、緑のスポットで彩られた数々の大きな作品から瑞々しいインスピレーションを感じることが出来ました。

『桜』の作品を観るまでは、『1000年』や『母と子、分離されて』の作品のインパクトが強すぎて、あまり観たいと思っていませんでした。

しかし、『桜』シリーズを観たことによって、『1000年』や『母と子、分離されて』などの作品についても調べて、ダミアン・ハーストが表現しようとしている「生と死」について考える機会を得ることが出来ました。

ダミアン・ハーストは私が普段目を背けている「生と死」に真っ直ぐ向き合い、そして『桜』で昇華させたように思いました。その『桜』シリーズにはダミアン・ハーストのスポットペインティングなどの技法が活かされ、本人のメッセージと技法が相重なって個性のある素晴らしい作品に仕上がっていると思いました。

桜は毎年、一気に咲き誇り、そして散っていきます。その後には青々とした葉が生い茂ります。毎年毎年、古い花や葉は落ちて入れ替わっていきます。その「生と死」の普遍性や規則性を『桜』の作品から感じました。

スポットペインティングのスポットも、初期の頃は規則正しいスポットでしたが、後期になると不揃いで個性的なスポットになっていきました。『桜』の作品のスポットも不規則で、絵の具をぶつけて描かれたスポットには勢いを感じることが出来、不規則なスポットの作風に行きついたダミアン・ハーストの作風の変遷から年を重ねて変化しているダミアン・ハースト自身の生き様を感じとることが出来ました。

そんなことを妄想したりしながら絵を鑑賞するのも楽しかったです。

今回の展示には我が子と68歳の父も一緒に行きました。子どもも楽しんで観ていたし、保守的な父も「面白かった!」と現代アートにご満悦の様子でした。色んな世代の方々がお花見のように楽しめてお勧めです。

読んでくださり有難うございました。

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